B君の例

B君が能力開発工房に来た時は、会社を辞めたばかりでした。最初は英語ではなく、別のコーチングを受講していたのですが、後に英語に切り替えました。具体的な目標はなかったので、最初は英語力の向上を目指したカリキュラムを組みました。

勉強を始めたころの英語力は、TOEIC300点台です。実は英会話スクールにも通っていたようです…。大学は理工系で、大学、社会人時代は特に英語を勉強していたわけではないようです。英会話スクールも会社を辞めてから通ったようでした。

B君はとても真面目です。少し真面目すぎるかな~と思うくらい。その真面目さが裏目に出て、何か課題があって出来ないと、必要以上に自分を責めてしまい、それが元で、更に身動きできなくなるようでした。元々は好きな物には、とことん取り組んでコツコツやれる努力家でもあります。しかし、最初の頃は、この良さが発揮できませんでした。

2週間に1回のペースで能力開発工房の受講を開始します。1回の受講は2時間でした。

B君は、やる気もあるのですが、職場でダメ出しされた辛い経験があるのでしょう、何かにトライして出来ない結果を見ることを過度に恐れていました。その怖れのせいで、勉強のやり方が自己流に走りやすかったです。例えば、理解した英文を暗記するように指示を出したのに、ディクテーションをしてしまったりするのです。しかし、B君と接していて、わざと違うことをしているのではないことは分かっていましたので、何度もやり方を擦り合わせて勉強を進ませました。こう書いていると落ち着いて対処したかのようですが、たまには、「何故言った通りできないのか」と、声を荒げてしまったこともあります。講師として反省しています…。

とりあえず何か目標を持とうということでTOEICテストにトライすることにしました。しかし、なかなか点数が上がりません。500点代で頭打ちになりました。文法の知識はついているのですが、分からないことをそのままにして先に進めない性格が災いして、スピード重視のTOEICテストの途中で考え込んでしまうのです。

英文解釈の力を底上げするために『ビジュアル英文解釈』をやってもらいました。Part1、2を通して3回やってもらいました。もちろん音読もしっかりこなしてくれました。

英文解釈力はだいぶ付いたのですが、TOEICのスコアはそんなに伸びませんでした。模試を解かせて、時間を制限せず、自分が納得するまでゆっくり解くとリーディング部分で450点以上の実力があるのですが、時間内となると全く実力を発揮できません。そして、更に困ったことに、本人が、動きが止まっていることに気づいていないのです。これには正直参りました。しかし、前向きに真面目にやる気持ちはあるB君です。何度も時間を設定して、その時間内に英文を読む練習を課しました。問題を目の前で解かせて、動きが止まると注意するという勉強も何度もやりました。お陰で次のTOEICでやっと700点を超えることができました。

TOEICのリスニングでも、聞き取れないと気持ちの切り替えができず、次の問題を聞き逃すことが多かったB君ですが、Part3と4のテキストを暗記してもらったところ、グンとリスニングの成績が伸びました。

本格的な洋書の多読に入る前に、学習者用の多読用の本にトライしてもらいました。100万語を目指してスタートです。こちらからは、なるべく辞書を引かないで読み進めるように指示したのですが、B君の几帳面な性格から分からないまま読み進めることが苦痛だったため、納得いくまで調べながら読むスタイルに変更しました。

調べながら読むので、取り組み始めた当初は時間が思いのほかかかりましたが、徐々にペースが上がってきました。100万語どころか150万までコツコツと読み進めました。このころには、B君は「僕は英語の本を読むのが大好きです」と笑顔で語ってくれるようになりました。そろそろ普通の洋書に進めるだろうと判断しました。ちょうど、学習者用に簡単な英語にリライトされたグリシャムの本を読んでいたので、同じタイトルの元の洋書を読んでもらうことにしました。グリシャムの本は結構分厚いこともあり、1冊読むのに2か月かかりました。B君はグリシャムが気に入ったようだったので、そのままグリシャムシリーズを読み進め、グリシャムシリーズを読み始めて半年経つころには、1か月以内に1冊読み終わるようになりました。

TOEICテストで、なかなか読むスピードが上がらず900点の壁を越えられなかったのですが、多読の成果で無事900点を超える点数をたたき出しました。

B君の分からない所は曖昧にせず、しっかり調べる性格が発揮され、英語だけでなく、米国の裁判のしくみですとかアメフトのルール等まで詳しくなっています。