読書案内 ラダーシリーズの『走れメロス』
今回紹介する本は、ラダーシリーズの『走れメロス』(太宰治著、マイケル・ブレーズ訳)です。ラダーシリーズというのは、IBCパブリッシングより出版されている英語学習者の多読用の本です。語彙制限されたもので英語の長文に慣れ、徐々に原書を読めるようにする、まさに梯子のような存在です。語彙の多さでレベル別になっており、一番易しいレベル1からレベル5まであります。今回の『走れメロス』はレベル1であり、語彙は1000語レベルで、英検4級以上の読者を対象としています。
しかし、語彙制限はされているものの、英文の中で従属節も関係代名詞も使われていますので、中学英文法があやふやな人には、結構難しく感じることでしょう。また、巻末には単語リストもついていて、英語学習者には、ありがたい本です。
さて、肝心の本の紹介ですが、『走れメロス』は、教科書にも載っていたことがありますので、内容をご存知の方も多いと思います。一応あらすじを紹介します。人を信じられなくなった王様が、王様に立てつくメロスを殺すことにするのですが、メロスは妹の結婚式が終わるまで待ってほしいと願います。メロスの友が身代わりとして人質になってくれ、無事メロスは妹の結婚式に出席することが出来ます。そして、今度は身代わりとしてメロスの帰りを待つ友のところに走って向かうのです。もし、約束の時間に一秒でも遅れたら、メロスの友は、メロスの代わりに処刑されることが決まっています。さて、メロスは時間に間に合うのでしょうか…。
実は、中学生時代、太宰治の『人間失格』にハマっていまして、何度も繰り返し読んでいました。『人間失格』は、読めば読むほど暗くなるような本ですが、暗い中学生の私には、合っていたのでしょう。その後、『走れメロス』を読み、太宰治には、こんなにも明るく、人を信じることの素晴らしさを書いていたことを知って、驚きながら読んだことを覚えています。
ラダーシリーズの『走れメロス』は、簡単な文章にリライトされてはいますが、それでも、色々な葛藤を超えて人を信じるメロスに感動しました。また、若い時には、あまり気に留めなかったのですが、王様の傷ついた経験が、王様を攻撃的で人を信じられない性格にさせたことにも気づきました。
人間関係に傷つくと、誰も信じたくなくなります。それでも、『走れメロス』を読むと、やっぱり人を信じることを自分も選択しようと思います。一説によると、『走れメロス』を書いた時、太宰治は人生で一番幸福だったようです。幸福とは、友を、そして、自分を信じることが出来ることなのかもしれませんね。
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